<投稿者:存在の耐えられない軽さに悩む京都のカレー屋さん>
ラブ・ストーリーは突然に
カレーと全然関係ないんですが、苦労したらしただけ必ず最後に愛が勝つ日がやってくる「自家製からすみ」のギャー版レシピを公開します。何でカレー屋やのにからすみのレシピやねん…という疑問は多々お有りかと存じますが、そこはほら…好き…だから……ということでご納得ください。
ちなみに「からすみ」というのは調理方法の名称です。ボラの卵巣で作るものが日本では一般的ですが、たらこ等でも作ることができます。今回はボラのを用いたレシピをば。基本、調理中の保管は冷蔵庫内でお願いします。
苛立つこともあったけど、私は元気です
①ボラの卵巣に走る血管に、しっかり消毒した針(なるべく細いもの)で穴を2〜3箇所ずつ開けていきます。血を抜き切らないとクッッッッッソほど生臭い仕上がりになってしまうので、根気強く全ての血管(もちろん毛細血管にも)に、丁寧に穴を開けていくことが大事となります。血管に対して針を垂直に入れることを心がけてください。卵巣の薄皮を破らないよう注意!
出だしからめっちゃイライラする工程ですけど、美味しいからすみの為…と割り切って辛抱して頂きたいです。手に入るなら、太めの血管が走ってる卵巣を選んでください。作業のやり易さが段違いなので。
②血管に穴を開けた卵巣を、キンキンに冷えた氷水に一日漬け置き、血を抜きます。数時間おきに何度か水は換えてやった方が、血の抜けが良いです。浸透圧の関係ですかね?理由は謎です。
塩対応・放置プレイ・酒浸りの日々
③ここからしばらく放置系の作業が続きます。まず初めは1週間ほどの塩入れ。水気を拭き取った卵巣に塩をまぶしていきます。このとき使う塩の種類で最終的な味が決まる…と言っても過言では無いほど、大事な工程です。普通の食卓塩でも作れなくはないですが、折角なら塩選びにもこだわってみると面白いのではないでしょうか。
参考に、うちでは海塩(沖縄産とメキシコ産のミックス)と岩塩(ヒマラヤ産)を3:1の割合で混ぜて使いました。あ、塩の量は、卵巣の重さの3割を目安にしてください。
塩をまぶす前に卵巣の表面へ、好きなスパイスやハーブをまぶしてもいい感じに風味が出て楽しいです。ちなみにうちでは、タイム・オレガノ・アジョワン・ベトナム土産のライム塩をまぶしてみました。ディルやコリアンダーなんかも合うかもしれません。
なお、この工程で卵巣からびっくりするほど水が出てきます。
- 網や簀子などで容器の底に隙間を作り、溜まった水をこまめに捨てる
- 水分を吸ってベタベタになった塩自体を全換えする
- 脱水シートを底に敷いて水を吸わせる
など、自分に合った方法で水抜きと塩入れを行なってください。脱水シート使うなら1日1回は取り替えてね。
④水分が抜けてカチカチに固くなった卵巣を水に1日漬け込み、塩を抜きます。1〜2回は水換えた方が良いかも。
⑤塩が抜けたら水気を切って、お好みのお酒(度数高め)で1週間漬け込みます。酒の量は大体、卵巣の重さの1.2倍位で考えてもらったら良いかと。
漬ける酒の種類で見事に風味が変わるので、何腹分か卵巣用意してバリエーション試してみるのも楽しいですよ。個人的に好きだったのは、白ワイン+テキーラで漬けたものと、超絶スモーキーなアイラモルトで漬けたものでした。お客さんに好評だったのは中国醤油+テキーラで漬け込んだ「からすみの暗黒面」とでも言うべき真っ黒な風貌のアレでした。
世話と哀切と私
⑥漬け込みが終わったら卵巣の汁気を切り、2〜3週間のあいだ天日干しし、卵巣をしっかり乾かしていきます。ここからは「育成」「忍耐」「無償の愛」がテーマとなってきます。
カビ防止のため、漬け込んでいたのと同じお酒をハケ等で全面にまんべんなく塗り付けます。毎日干す前に必ず塗り付けてください。
忘れがちになってしまうんですが、卵巣の付け根部分・卵巣の裏側にもしっかりと酒を塗りつけること。つい塗り忘れてカビが付いたらその時点で試合終了です。カビの毒素は熱などでも分解できないので、一度付いてしまうとその卵巣を泣く泣く捨ててしまう他ありません。あ、毎日表裏をひっくり返しながら干していくと、乾燥ムラも無くなって良いと思います。
天日干しは気温の低い時期にしてください。でないと日光で過剰に温められ、卵巣内部で細菌が爆発的に繁殖しちゃって悲しみの世界が訪れます。
日本で晩秋から冬にかけてからすみが仕込まれるのには、そこらへんの理由もあるのかなぁと。知らんけど。
そうそう、干すのは昼間の間だけにしましょうね。夕方には取り込んで冷蔵庫にラップせず入れて、庫内でも乾燥させましょう。雨降りの日はそのまま庫内で乾かしておきましょう。その場合も酒は塗ってね。
⑦しっかり乾いてくると、指で押した時ほんのり弾力がある位の触り心地になってきます。その状態になったら表面に、ハケ等でオリーブオイルを薄く塗って(酸化防止)、真空包装して、冷蔵庫内で更に1〜2ヶ月熟成させます。パーシャル室とか氷温に近いとこに入れるのがベストかな。
⑧熟成できたら…ようやく……からすみの食べ頃。包装解いて思い思いに切って食べてみてください。ホント…めちゃくちゃ美味いから…。チーズみたいに濃厚な、もっちりクリーミーな魚卵的な何かが、貴方の味覚を捉えて離さなくなること請け合い。ただただ愛が深まるひとときです。
熟成終わった段階で、真空包装のまま冷凍保存しておけば、そこから1年は保つと思います(自己責任)。卵巣の表面に張ってる薄皮は、剥いだ方が食感良くなります。そのやり方は宿題な!!てなわけで、ステキなからすみライフをお過ごしください!!
【補足】たらこで作る場合は以下の点に注意してください。
- たらこにはアニサキスが付いていることがあります。1〜2日の間-20℃位で冷凍したものを解凍してから使ってください
- 生食が可能なものを使用してください
市販の味付たらこや明太子を使うと、上記2点の心配は要りません。しかも①〜⑤の工程すっ飛ばして作業できるので時短も可能ですョ。ぜひお試しください。
<投稿者:存在の耐えられない軽さに悩む京都のカレー屋さん>