<投稿者: さつき @satsuki_eng>
去年まで大学でロボコンやロボットの研究をしていた、新米の機電系エンジニアです。趣味として、見た人に「面白い!」と思ってもらえるような、少し変わったロボットを作っています。
https://twitter.com/i/events/1249293342556311553?s=13
何を作ったか
今回作成したのは、関節に搭載された4つのモータだけで、前後左右に動くことができる、全方向移動型のヘビロボットです。まずはこの動画をご覧ください。
完成しました!新型ロボットです🐍#SnakeRobot #Adventurer3X pic.twitter.com/MIr9FgW9O5
— さつき (@satsuki_eng) 2020年5月12日
なぜ作ったか
オムニホイールを使って、何か面白いロボットが作れないかと考えていたときに、ヘビロボットへの応用を思いつきました。
2輪駆動・オムニホイール・メカナムホイールの仕組みと制御 Arduinoを使った特殊車輪走行メカニズム (NextPublishing)
- 作者:榊 正憲
- 発売日: 2019/08/23
- メディア: Kindle版
ヘビが前に進むしくみ
生物のヘビが蛇行によって前に進むしくみをご存知でしょうか?蛇行推進のカギとなるのは、腹の構造にみられる「滑りの異方性」です。ヘビの腹には、スケート靴のようなエッジがあり、進行方向(長手方向)には滑りやすく、横方向には滑らないという特性があります。この「滑りの異方性」により、ヘビは体をくねらせるだけで前に進むことができます。体をくねらせるときに、頭から尻尾にかけて波を送るようにすると前に進み、逆に尻尾から頭に波を送るようにすると後ろに進みます。
これをロボットで再現するにはどうしたら良いでしょうか。実は、「滑りの異方性」は、駆動力を持たない車輪(キャスター)を胴体に取り付けることで、簡単に再現できます。また、胴体のリンク(骨)の数は、実際のヘビのように何十個も必要ではなく、最低3つでかまいません。言い換えれば、ヘビロボットは2つのサーボモータで自作できるお手軽ロボットなのです。
サスが硬過ぎて、手で押さえてあげないと進めない。要改善💦#SnakeRobot pic.twitter.com/pHu88iXFRk
— さつき (@satsuki_eng) 2020年4月29日
作ったロボットの紹介
今回作成したロボットは、最小構成より少し豪華で、1関節あたり2つのモータ(計4つ)を搭載しています。これによって、関節をヨー・ピッチの2方向に曲げることができます。また、「滑りの異方性」は、ただの受動車輪ではなく、オムニホイールと差動歯車の組み合わせによって実現しています。
この機構を使うと、蛇行だけでなく「横方向への転がり移動」が可能になります。具体的には、下図のように、第二リンクに対して、他のリンクを円弧状に動かすことで、ロボット全体が寝返りを打つように横方向に移動します。(余談ですが、この移動方式はおそらく生物のヘビには見られません。腹だけでなく体全体に滑りの異方性が必要になるのと、何より目が回るので……
同様の性質は、各リンクの中央に1つオムニホイールを固定するだけでも実現できますが、そうするとロボットの姿勢がS字状になったときに、下図の赤線を軸に、ゆらゆらと揺れてしまいます。これは、ロボットの接地点をつないだ多角形(支持多角形)の面積が0になってしまうためです。それに対して、胴体リンク1つあたりに接地点が2つあると、S字になっても、支持多角形の面積が0にならないので、姿勢が安定します。
どのように作ったか
1)オムニホイールの設計
今回の設計では、オムニホイールの軸の中に配線を通す必要があります。その用途に合わせて、今回は専用のオムニホイールを自作しました。詳細は別の記事で紹介しています。
組み立て完了🔩
— さつき (@satsuki_eng) 2020年4月17日
文句なしの完成度…!!#Adventurer3X pic.twitter.com/pqoF0SgUsx
2)差動歯車機構の設計
差動歯車機構に使用するベベルギヤ(傘歯車)の設計には、以下のサイトを使用しました。
3)二自由度関節の設計
モータ二つを90°ずらした形で組み合わせれば、2方向に曲がる関節を作ることができます。しかしながら、実は単純に組み合わせるだけでは、関節両端のリンクの瞬間的な回転速度が同じになりません(カルダン誤差)。
http://www.taiyo-koki.co.jp/UJ.pdf
リンクの回転速度がそろわないと、ロボットはきれいに転がることができません。そこで、二自由度関節の設計は、ヘビロボットの大御所である高山先生・広瀬先生のアイデアを参考にしました。
http://rraj.rsj-web.org/back_wp/wp-content/uploads/22_625.pdf
ポイントは、関節中心部分のロール回転をフリーにし、代わりに蛇腹構造で2つのリンクをつないでいる点です。
これによって、関節で繋がれた2つのリンクの回転速度はぴったり同じになります。曲がるストローを曲げて、片方を回すと、もう片方も同じ速度で回りますが、それと同じ原理です。
蛇腹の柔軟部分(ピンク色)は、TPUフィラメントを用いて3Dプリンタで製作しています。曲がりやすく、ねじれにくい蛇腹を作るために試行錯誤を繰り返しました。
大量の失敗作を生み出して連休を終えようとしている。
— さつき (@satsuki_eng) 2020年5月5日
もうあと一歩な感じ😥 pic.twitter.com/YKrHMgqVwF
ついに理想の蛇腹の開発に成功した!
— さつき (@satsuki_eng) 2020年5月6日
(軽い力で曲がるが、捻れない) pic.twitter.com/Tj3m8dVWAg
また、動力伝達のスパーギヤの設計にはFusion 360のアドインを使用しました。このアドインにはBacklashの設定項目があり、この値を0.2mm程度に設定することで、3Dプリンタ(Adventurer 3/3X)で造形する際の膨張誤差を相殺することができます。
課題
オムニホイールの樽の回転が少し渋いこともあり、現段階では蛇行の際にかなり滑っています。理論的にはスムーズに動けるはずなので、改良の余地ありです。
(ロボットの部品点数が多いので、なかなか分解に踏み切れません……)
最後に
今回は、オムニホイールと差動歯車を使った新型ヘビロボットについて、メカの部分を中心に紹介しました。Twitter上でも、ヘビロボットを作られている方はあまり見かけないので、この記事をきっかけに、ヘビロボット仲間が増えると嬉しく思います。
<投稿者: さつき @satsuki_eng>
去年まで大学でロボコンやロボットの研究をしていた、新米の機電系エンジニアです。趣味として、見た人に「面白い!」と思ってもらえるような、少し変わったロボットを作っています。