子どもから大人まで、誰でも楽しめる大人気光線銃ゲーム「ひょっこりイタチグマ」。安全な赤外線方式を採用し、オープンソースハードウェアによって開発された次世代型射的ゲームシステムの開発プロセスと全貌を大公開。
<製作:TOKYO FLIP-FLOP>
TOKYO FLIP-FLOP(TFF)は独創的なアイデアで素敵なサムシングを提供するインディーズメイカー(Maker Pro)。レジプラ、コミキャス、アクリルフロッピーフィギュア、エアコン室外機フィギュアのような、趣味性の高いプロダクトを開発・販売している。
光線銃ゲーム「ひょっこりイタチグマ」
まずはこちらの動画をご覧頂きたい。
裏メイカー祭で展示したひょっこりイタチグマです。光線銃でひょっこり出てくるイタチグマを撃ってます。 pic.twitter.com/wIenF7XJOG
— TOKYO FLIP-FLOP (@tokyo_ff) December 23, 2018
「ひょっこりイタチグマ」は、物陰からひょっこり出てくるイタチグマを光線銃で撃つというシンプルなゲームだ。光線銃が当たると、イタチグマが「ヴァ!」と鳴き、点数がカウントされていく。終盤になるとイタチグマの出現スピードが上がり、同時にその難易度も上昇していく。
ゲームが終わると、かわいいイタチグマのイラストと点数がレシートで印刷される。イタチグマのイラストは40種類用意されていて、貰うとちょっと嬉しい。
Yahoo! JAPAN Hack Day 2018 裏メイカー祭(冬)では、子どもから大人、豆乳からカエルまで、引っ切り無しに人が訪れ、大人気のコンテンツとなった。
開発の経緯
最初になぜ光線銃ゲームなのか、そもそもイタチグマって何?というところを説明しておこう。きっかけはHack Day 裏メイカー祭(冬)。すべてはこのカオスなイメージビジュアルから始まった。裏メイカー祭(冬)に向けて、展示コンセプトを話し合っていたところ、Twitter界隈で有名なデザイナーのAKIKO TANAGO氏からヤバイのが送られてきた。
展示テーマは「サイバー屋台」。屋台と言えば、射的だということで光線銃ゲームを作ることに…。ゲームにおいて、最も重要なのがキャラクターと世界観。撃っても大丈夫そうという理由から(ちょっと可哀想だけど)、裏メイカー祭公式キャラクターのイタチグマが採用された。出現方法は、どう出てきたらイラッとするかに重点をおいて、熟考を重ねた。
※ちなみにイタチグマは、ぐるくんさんがデザインしたオリジナルキャラクター
※開発初期には、LEDディスプレイをいくつか並べて、敵を出現させる案もあったが、それっぽいアーケードマシンが同時期に出ていたので断念。
ひょっこりイタチグマの開発段階では、LEDディスプレイに表示されるインベーダーを光線銃で撃つというアイデアもありました。著作権的にまずいので、見送りに。 pic.twitter.com/i58bK0fL7C
— TOKYO FLIP-FLOP@Webメディアびっくりセール (@tokyo_ff) January 4, 2019
※ボツになったアブダクションゲーム。宇宙人に誘拐される牛やおっさん(牧場主)を光線銃で助けるという案。ちなみに光線銃で撃つとターゲットが消滅する。(助かっていない)
ひょっこりイタチグマを構成するシステム概要
「ひょっこりイタチグマ」を構成するシステムについて紹介しよう。
- 赤外線を発信する光線銃
- 赤外線センサ・サーボを備えたイタチグマユニット
- コミキャス(ラズパイ内蔵)によるI/Fマシン
の3つのユニットで構成される。光線銃にはArduino Nanoの中華製互換機、イタチグマユニットとI/Fマシンにはラズパイ(RaspberryPi)が使用されている。
光線銃の作り方
こちらが光線銃の中身となる。
- 中華製Arduino Nano互換機
- 赤外線LED
- サウンド発生用のDFPlayer mini
- トリガー用マイクロスイッチ
- 適当なスピーカー
- 電源供給用のモバイルバッテリー
- ハサミで切れるユニバーサル基板
というシンプルな構成だ。当初はtone関数で効果音を出そうとトライしていたが、満足な音にはならなかった。DFPlayer miniならアンプが内蔵されているので、マイクロSDカードを仕込み、スピーカーを接続するだけで利用できる。
また赤外線LEDのドライブ回路はこちらのページを参考に組んだ。LEDからはソニーのテレビ電源ON信号が出力され、イタチグマユニット側で検出されるようになっている。
中華製Arduino Nanoは激安なので、使い捨て用途で大量に買っておくと良いだろう。
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光線銃の外装
光線銃の設計において、今回新しい工法を採用したので、ついでに紹介しておきたい。まずはイラストをカラーレーザーで出力し、3mmのスチレンボードに貼り付けて、切り取る。
イラストのデータから境界線を抽出し、3D CADで押し出してパーツ化。3Dプリンタで出力する。出力したパーツ類をグルーガンで接着すると、軽量で両面フルカラー印刷された筐体ができる。耐久性はさほどないが、スピーディーに筐体を作るにはオススメの方法だ。
イタチグマユニットの作り方
イタチグマユニットの動作を見てみよう。
「ひょっこりイタチグマ」のイタチグマユニットが動作している様子。 pic.twitter.com/ok85b5VcDf
— TOKYO FLIP-FLOP@Webメディアびっくりセール (@tokyo_ff) January 4, 2019
光線銃と同じように、スチレンボードにイラストを貼って作られている。サーボの固定パーツはオリジナルパーツを設計し、3Dプリンタで出力した。
今回は、全5体のイタチグマユニットを同時に動かしている。このとき課題となるのが、サーボモータの制御である。PWMの出力数やドライブ電流の不足などにより、ラズパイ単体で駆動するのは難しい。そこで使ったのが、PCA9685というICを搭載したサーボドライバだ。
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これがあれば、なんと最大16個ものサーボを駆動可能。しかもラズパイからは、I2C経由で簡単に制御できる。以前から目を付けていたパーツだったのだが、「一体なんに使えばいいんだ……」とずっと考えていた。それがまさか、イタチグマの制御にうってつけだったとは。
動作方法は、こちらのサイトを参考にさせてもらった。メイカーにはお馴染みのAdafruitがライブラリを公開しているので、それを使えばすぐに動作させることができる。
また赤外線の受光部を、イタチグマの頭上に取り付けてある。
写真は試作時の様子だが、本番では以下の赤外線センサに、ノイズ除去用の抵抗とコンデンサを付けた状態で使用した。
ここで気になるのは、太陽光の当たる屋外で使用したときの受光感度である。事前にテストしたところ、やはり屋内で使うよりも感度は落ちて、しっかり狙って赤外線を当てないと受光しない状態に。でも逆に、その特性が射的ゲームには好都合なのであった。難易度調整をするまでもなく、自然と「ちょうどいい難しさ」が生まれたのだ。
他にも、イタチグマに赤外線が命中すると「ヴァッ!」という声(叫び声?)が鳴る機能も付けている。この鳴き声「ヴァッ!」は、イタチグマの公式設定なのでぜひ覚えておこう。
このように、
- サーボを動かしてイタチグマを出現させる
- 赤外線センサで、光線銃から発射された信号を受光する
- 命中すると「ヴァッ!」という声で鳴く
という機能を、ラズパイ+Pythonのプログラムで実現した。
コミキャスを利用したI/Fマシンの作り方
ゲーム後にイタチグマのイラスト&点数が印刷されるレシートは、TFFが開発した「コミキャス」を改造して出力することにした。ここにもラズパイ(Raspberry Pi A+)が入っている。
本来であれば、「ボタンを押すとレシートにマンガが印刷される」というマシンなのだが、魔改造によって以下の機能を持つI/Fマシンへと生まれ変わった。
- ボタンを押すと、イタチグマユニットへゲーム開始信号を送信
- ゲーム終了時に、イタチグマユニットから点数を受信
- 受信した点数と共に、イタチグマのイラストをレシートに出力
イタチグマのイラストは、毎回ランダムで出力される仕様とした。
実はこれ、全部で40種類も用意していた。かわいい(でもちょっとイラッとする)イタチグマは、子どもから大人まで大人気であった。
最後に…
今回の「ひょっこりイタチグマ」は世界観とキャラクターがなかなか決まらず、実質2週間の突貫開発となってしまった。イタチグマという素敵なキャラクターがいなければ、ここまでまとめ上げることは出来なかった。作者のぐるくんさんには感謝しても仕切れない。
11/21の時点でまだこんな感じ。光線銃は出来ていない。
ひょっこりイタチグマ。今日の進捗です。ワニワニパニックみたいにイタチグマが出てきたところを光線銃で撃つゲームです。 pic.twitter.com/oTwunrQY5Y
— TOKYO FLIP-FLOP@Webメディアびっくりセール (@tokyo_ff) November 21, 2018
TFFでは予てより、コミケ駆動開発によってプロダクトを開発してきたが、今回もその有用性を強く認識することになった。(ぶっちゃけ締切がないと物にならない!)
ひょっこりイタチグマの今後
ひょっこりイタチグマ面白いよ。
— TOKYO FLIP-FLOP@Webメディアびっくりセール (@tokyo_ff) December 15, 2018
アキバに来たら体験していってね。#つくるってたのしいね #hackdayjp#裏メイカー祭 #アキバ #秋葉原https://t.co/8wv9nZGflI pic.twitter.com/qsd5QOkvNv
ひょっこりイタチグマは裏メイカー祭のために作ったゲームで、つまりターゲットや販路、ビジネスモデルなどは一切考えず、ただ面白そうだから作った。(欲しいから作ったという点ではレジプラと同じ)
展示していると、「家電量販店などの客寄せに使える」、「弾が出ないから子供にも安心」という声を頂き、1日いくらで借りたいという具体的なオファーまで頂いた。将来的には、家電量販店の軒先や、老人ホームでイタチグマがひょっこりしている未来が見られるかもしれない。ひょっこりイタチグマで一発当てたいという奇遇な投資家の方がいたら、Twitterアカウントまで連絡いただきたい。
参考資料
ひょっこりイタチグマを開発する上で、既存のプロダクトをいくつか調査した。参考までにリンクを貼っておくので、気になったら見ていただきたい。任天堂の光線銃ゲームは凄い!