小型ながら30Wの出力をほこるレーザーカッター「beamo」。環境整備の仕方や、気になった点などを中心に紹介します。
〈投稿者: 斎藤公輔(NEKOPLA)@kawausokawauso〉
組込みエンジニア。エアコンの配管や室外機を愛でながら、ときにはデジタルガジェットを制作したり、ライターとしてデイリーポータルZなどに寄稿したりする生活を送る。
家にレーザーカッターがある生活
メイカーにとっての三種の神器といえばなんでしょうか。個人的には、3Dプリンタ、レーザーカッター、CNCフライス盤じゃないかと思っています。このうち3Dプリンタはすでに普及フェーズに入っていますが、次に流行るのは間違いなくレーザーカッターですね。ここ数年、気軽に設置できるサイズの家庭用レーザーカッターがたくさんリリースされています。
というわけで買ってしまいました、小型レーザーカッターの「beamo」!
まだネット上に情報が少なく、実機確認できる機会もなかったので買う前は不安でしたが、いまはたいへん満足しています。これがあれば家での工作が捗りまくりです。
使い方などは他のサイトを参考にしてもらうとして、ここでは私が行った環境整備についてと、使ってみて気になった点などを中心に紹介します。
小型で高出力のCO2レーザーカッター
本体サイズは幅61.5cm、奥行き44.5cmと、レーザーカッターの中ではかなりの小型です。これなら家に置いても邪魔にならないな、というのが購入の決め手でした。
しかも30Wの高出力、レーザーの種類は「CO2レーザー」です。もっと小型で安価な機種もありますが、大抵は数Wの「ダイオードレーザー」です。大きな違いは、切断できる素材と厚み。特にダイオードレーザーの場合は透明アクリルの切断が不可ということで、候補からは外れました。
これまで「アクリルフロッピーフィギュア」などを作ってきた身としては、透明アクリルの切断はマストでした。
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- メディア: Personal Computers
そんなbeamo、日本での販売価格は税別228,000円と、それなりの値段がします(このクラスにしては十分安いですが)。次に紹介するオプションなども入れると、30万円以上かかるのがネックです。私も個人で買うのは厳しかったので、TOKYO FLIP-FLOPの備品として共同購入しています。
でも家で気軽にレーザー加工できるのは、個人的には革新的でした。このレベルの加工が! 家で! すごい! 切断や彫刻も問題なく、使い方も簡単で非常に良い感じです。
一緒に準備したもの
家庭用とはいえ、危険を伴うのがレーザーカッター。本体を設置すれば何も考えずに使えるわけではなく、最低限「煙対策」「臭い対策」「安全対策」の3つが必要になります。そのために、本体の他にもいろいろと揃える必要がありました。
集塵機
まずは煙対策。屋外に気兼ねなく排煙できる場合はいいですが、住宅街だとなかなか煙を出しづらいです。beamoにはオプションで集塵機が用意されてるので、迷わずそれを購入。こちらもネックになるのは価格(税別88,000円)ですね……。
beamo本体の裏側にダクトを付けて、
それを集塵機につなぎます。
排気口からは、クリーンになった空気が吹き出してきます。これを使えば、少なくとも目に見える煙はまったく発生していません。煙レスです。
注意したいのは、あくまで集塵機であって、消臭能力は低い点です。臭いは排気口から容赦なく吹き出してきますので、その対策は別途必要になります(後述)。
USB端子も付いていて、本体の動作と連動して勝手に電源がONになります。最近のファームアップでようやく実装された機能で、これでかなり使い勝手がよくなりました。
脱臭機とサーキュレーター
次は臭い対策。レーザーカッターを使ったことがある方は分かると思いますが、MDFを切ると燻製みたいな臭いが、アクリルを切ると体に悪そうなケミカル臭がします。対策しないと部屋が終わってしまいます。
とりあえず脱臭効果が高いと評判の、富士通ゼネラルの脱臭機を設置しました。が、これで脱臭できるほど、やわな臭いではなかったです……。効果としては、あると気休めにはなるかな、くらいでした。
やはり一番効くのは、窓を開けての換気ですね。窓際にサーキュレーターを置いて換気を促すことにしました(カーテンを閉めてるのは撮影の都合)。ここまでやると、だいたい15分後には臭いは消えています。換気は大事です。
保護メガネと消火器
最後は安全対策。レーザーから目を守るためには保護メガネが必須です。本体カバーはただの透明アクリルなので、動作中にレーザーを目視するのは危険です。説明書には「保護レベルOD5以上のグラスが必要」との記載があります。
私は大きめのメガネをかけているので、メガネonメガネができるリケン RS-80 Vを買いました。
火が出るおそれがありますので、消火器も必須です。いろんなタイプがありますが、使った後が汚くならない気体タイプを常備することにしました。
オートフォーカスユニット
あってもなくてもいいものですが、メーカーのオプションで「オートフォーカスユニット」というのがあります。
通常レーザーカッターを動かす前には、加工する素材に合わせてヘッドの高さを調整する作業が必要です。それを自動でやってくれるのが、オートフォーカスユニットです。
とはいっても全自動ではなく、ヘッドの横のボタンを二度押す必要があります。毎回1分弱の作業の手間が省ける、というくらいの効果ですので、正直あってもなくてもどっちでもいいかなと思います。
ちなみにですが、デフォルトのユニットからオートフォーカスユニットに付け替える作業が結構しんどかったです。手順書が非常に分かりづらく、あれこれ悩みながら取り付けるのに3時間くらい。そのあとレーザーの光路調整をやり直さないといけないのですが、その調整に半日以上かかりました。
特に光路調整が鬼門。説明書にやり方は書いてあるのですが、こちらも分かりづらさMAXで、内容を理解するのが大変でした。そのうえ間違った調整をすると、まったくレーザーが機能しない状態になりますので、何度も冷や汗をかく事態に。
この件に限らず、全体的に説明書が分かりづらく、日本語の怪しい箇所もあります。随時アップデートされているようなので、今後に期待です。
仕事猫の安全ポスター
危険を伴う作業ですので、仕事猫(現場猫)の安全ポスターが必須です。仕事猫はいつも我々に大切なことを教えてくれます。
2020年9月現在、以下のサイトで購入可能です。
気になった点
実際に使ってみて気になった点を挙げていきます。
動作音
この手のマシンで一番気になるのは、動作音のうるささかと思います。結論から言うと……かなりうるさいです。体感としては、風量MAXのドライヤーと掃除機を同時に動かしているくらいのブオーという音。一番うるさいのは本体の排気ファンです。
いちおう定量的にも測ってみました。スマホアプリなので精度は謎ですが、72dB程度という結果で、室内の音としては「かなりうるさい」レベルです。壁の薄いアパートなどでは厳しいかもしれません。
これには集塵機の音も含まれています。集塵機は風量調整が可能で、MAXにするとこの世の終わりみたいな地獄音がしますので、私は1/3程度の風量で使っています。
この音に最初はビックリしましたが、レーザーカッターは一回の動作が数分で終わることもあり、使っているうちに徐々に気にならなくなりつつあります。
加工エリア
本体サイズが小さいので、そのぶん加工エリアも狭くて30x21cmです。それに合わせて、あらかじめカット済みの素材を買う必要があります。個人的には、ちょっとした加工(試作など)をするには必要十分なサイズという印象です。反面、大量に加工するのには向いてないですね。
あと注意が必要なのは、付属のハニカムのサイズが加工エリアよりも狭いという点です。
赤線で示してあるのが、実際の加工エリア(実験して調べました)。どうにかならなかったのか、という感じですが、深く考えない方がいいかも……。
位置合わせ
加工の位置合わせは、本体に付いているカメラを使って行います。
専用のPCソフトを使うと、こんな風に加工エリアを撮影した画像が表示されるので、それを見ながら位置を合わせます。
ただ、見てのとおり、カメラの精度が悪くて画像がガタガタです。私のマシンの場合、左右に7mm程度の大きなずれがありました。
そのためミリ単位の位置合わせするのは不可能。おおよその位置合わせができる、という程度に思っておいた方がいいです。これもファームアップで改善されるのに期待です。
※追記:PCソフトにカメラのキャリブレーション機能が付いており、調整することで精度を高めることができました。大きなズレは解消され、位置合わせの誤差もかなり少なくなりました。
PCソフト自体はかなり分かりやすく、使い方に迷うことはないと思います。
実際に加工してみた
最後に、beamoで加工したあれこれを紹介します。
加工自体は非常にスムーズです。
最初に作ったのは、イタチグマのレリーフ。すげー! このレベルの加工が家でできるのか! って感動しました。
このグルグルうずまきは……
木製の蚊取り線香! 3つのパーツを組み合わせて作ってます。
台座の「金鳥」も再現。
続いては透明アクリル加工に挑戦です。
パンの袋をとめるアレ、バッグクロージャー! やけにかわいい感じになりました。
こんなちょっとしたものを瞬時に作れるのは、家にレーザーカッターがある利点です。わざわざ工房に行ってまで作るほどでは……というジャストアイデアが、どんどん形にできるという喜びがあります。
フロッピーだって、ほらこの通り。
彫刻面の仕上がりは、ヘアライン加工したみたいなムラができました。この辺はさすがに業務用機には勝てないところです。
同じデータを使って、MDFで小さいフロッピーを。かわいい!
最後に、MDFとアクリルを組み合わせて「ガス名標識」を作ってみました。工場などの入口に掲示されてるやつです。題材がことごとくニッチですみません……。
まとめ
加工精度にも現状不満はなく、こんなマシンが家に置けてしまっていいのか!? と思う毎日です。環境整備もうまくいき、煙や臭いに悩まされることもありません。
一方でメンテナンスが難しかったり、上述したような気になる点もあります……が、家で手軽にレーザー加工できる便利さの方が勝る感じです。工作の幅が広がったことで、これまで作れなかったものが作れるようになるんじゃないか、という期待感があります。
よし、これからどんどん作っていくぞ!
〈投稿者: 斎藤公輔(NEKOPLA)@kawausokawauso〉
組込みエンジニア。エアコンの配管や室外機を愛でながら、ときにはデジタルガジェットを制作したり、ライターとしてデイリーポータルZなどに寄稿したりする生活を送る。