技術書典生まれの即売会向けミニレジ「レジプラ」。技術書典4の開催を記念して、Kindle本「レジプラができるまで」の内容を無料公開。
量産課題と向き合う
前章までは、本書の初版(2016年6月)時点でのお話でした。ここでは、第二版の特別付録として、その後のレジプラについて少し追記しておきたいと思います。各種ニュースサイトの記事がバズったことにより、いきなり注目を集めてしまったレジプラ。それによって、かねてよりの量産課題が重くのしかかってきました。思い出して欲しいのですが、レジプラのキートップは家庭用3Dプリンタ製で、1セット出力するのに1時間以上かかります。
3Dプリンタは紙のプリンタとは違い、放ったらかしのまま連続で動作させることはできません。常に出力状況を見守る必要があり、とても手がかかります。そのうえ、夏になり室温が上がることで、出力に失敗する回数も多くなってきました(暑くても寒くてもダメなのです)。そのあたりが製造上のネックとなり、需要に対して供給が追いつかない状況に早くも陥ってしまいました。製造業にとって、こんなに苦しいことはありません。
キートップの製造を何とかしたい
どうにか製造スピードを上げられないかと、いろいろ模索しました。
・候補 1:3Dプリントサービスに出す
3Dモデルを工夫しても、外部サービスに出すと1セット5個で 1,000円程度が限界でした。現行のキートップは1セット100円ほどなので、オーダーが一桁違います。
・候補 2:金型を作る
個人で金型を作れそうな会社を探して、手当たり次第に見積もりを依頼しました。そのうちの一社、小ロット向けで有名な「プロトラブズ」で、金型一個20万円ほど。まあ出せない額ではないかなあ、という見積もりだったのですが、それは純粋に金型だけの値段でした。例えば今の形状のキートップの場合、金型を使ってプラスチックの射出成形をするのに、さらに1個あたり200円(1セット1,000円)くらいかかるとのこと。形状を修正すれば安くなる可能性はありますが、それでも大きなコストアップは避けられません。
この射出成形費用は、見積もりを取った会社ごとにばらつきはあるものの、どこも似たような傾向でした。「金型を作りさえすれば、あとの費用は安いだろう」と勝手に思っていたのですが、それは大きな間違いでした......。やはりもっと大量に、それこそ万単位で製造しないとスケールメリットは出せないようです。
・候補 3:3Dプリンタを買い増す
3Dプリンタを2個に増やすと、出力速度は2倍になります。しかし、一般家庭に3Dプリンタ2個というのはそれなりに邪魔です。かといって別々の家に設置すると、製造にかかる工数も2倍になってしまうため、生産的な解決法とはとても言えません。この案は、本当に最後の手段として暖めておきます。
量産対応版レジプラ
結局、キートップを製造するのに現実的な解がありませんでした。途方に暮れていたところ、各方面にアドバイスを求めていたうちのお一方から、「既製品のキートップが使えるよう本体を設計変更した方が早いのでは」という提案が。......それはそうだ。なぜ今まで気付かなかったのか。我々は、別にボタンのキートップが作りたいわけではなかったのです。「レジプラ」が作りたいのです。目先の課題にとらわれるあまり、完全に目的を見失っていました。そうと決まれば話は早い。スイッチに合う既製品のキートップを調査し、良さそうなものをいくつかチョイス。それがレジプラ本体と合致するように、基板のスペーサや電子部品をあれこれと組み替えました。
そうして出来上がったのが、量産対応版レジプラです。奇跡的に、ごくわずかな部品変更で済みました。既製品のキートップの都合上、四角いボタンから丸いボタンに見た目が変わってしまいましたが、もちろん機能的な差分はありません。例えるなら、初代ファミコンの四角ボタンが、途中から丸ボタンに変わったような感じでしょうか。結果的に四角ボタンのレジプラはかなりのレアモノになりそうですので、将来はプレミアが付く可能性もなきにしもあらずです。